パチンコ店入社の高いハードル【身元保証制度】前編
パチンコ市場規模・動向 2020/10/6
多くのパチンコホール企業が、入社が決まった人に身元保証書の提出を依頼しています。本人が会社に損失を与えた場合、保証人が支払いの責任を負うことを約束する書類です。
危険人物を入社前に排除できる、入社後の抑止力につながるなどのメリットはありますが、保証人が見つからず、入社をあきらめるケースが発生してしまうデメリットも。
関連する民法が改正、施行された2020年、パチンコホールの身元保証制度について改めて考えてみました。
採用決定後に保証人の問題が発生する
ご存じの方もいるでしょうが、根保証契約(一定の範囲に属する不特定の債務について保証する契約)を定めた民法第465条の2が改正され、2020年4月1日に施行されました。
法務省が作成したパンフレットには、「極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約は無効」という見出しで、以下のように書かれています。
「個人(会社などの法人は含まれません)が保証人になる根保証契約については、保証人が支払の責任を負う金額の上限となる『極度額』を定めなければ、保証契約は無効となります。
この極度額は書面等により当事者間の合意で定める必要があります。」
この変更は、人事・労務では身元保証に影響するのですが、それを論じる前に、現状の問題点を見ておきたいと思います。
まず、パチンコホールの入社書類は各社さまざまで、身元保証書を提出させる企業は少なくありません。パチンコホールに採用が決まった方から「身元保証人になってくれる人がいない、入社できないかもしれない」という相談をよく受けますが、なぜ、そうなってしまうのか?
疑問、条件、連帯保証が保証書へのサインを困難に
よくある三つのケースを説明しましょう。
最も多いのは、両親や親族といった近しい人に、就職することと保証人の書類を書いてほしいことを伝えた後、「本当にその会社は大丈夫なのか? 普通は、保証人なんていらないぞ」と突き返されてしまうケース。
近しい人に疑問を抱かれたことで、一気に不安が募ると同時に、手続き自体も面倒になり、「もう、いいや」となることは少なくありません。相談を受けてフォローしても、一度折れてしまった心を立て直すのは容易ではなく、入社辞退となってしまうことも。
二つ目は、必要とする保証人の人数、もしくは保証人の条件が厳しく、対応できないケース。
身元保証人は1~2人が大半ですが、保証人は両親もしくは親族、かつ収入のある方という企業もあります。“両親のどちらか1人+親族で1人”など、より厳しい条件が付くことも。
家庭環境によっては、対象者は限られてしまいます。何とか両親伝いでつながったとしても、遠縁で疎遠ならば、身元を保証する間柄でもないため、大半は断られてしまうことに。
そんなやり取りをしている間にも時間はたっていき、徐々に入社への意欲が薄れていきます。両親が、親族と波風を立てたくないと思い、入社の考え直しを迫るようであれば、それがダメ押しになりかねません。
三つ目は、身元保証書の文面が連帯保証としての意味合いが強すぎて、断られるケース。
就職という場面で担保するものは、“その内定者が誠実に働く人物である”という人柄のはず。しかし、「会社に損失を与えた場合は、連帯して補償をする」方に重きが置かれていると、それを見た両親や親族は、やはりパチンコ業界は金銭トラブルが日常茶飯事なのだと感じてしまいます。
そして、実際にトラブルが起きた場合には、「自分たちが借金を背負ってでも責任を取らなければならない」と解釈し、不安感が強まることで、パチンコホール企業への就職を反対してしまうのです。
お金が動くギャンブル、反社会勢力と関係している等という昔ながらのイメージを持つ人はいまだに多く、そういった方は、自分の身に何か降りかかることを考えてしまいます。
身元保証書にサインをしたくないことが、入社の反対にすり替ることがよくあるのです。
有名無実の身元保証制度
そもそも、なぜ、パチンコホール企業に身元保証人が必要とされてきたのか。
背景には、多額の現金を取り扱うことがあり、目を眩ませて不正行為を働いてしまった不届き者が、少なからずいたからです。
その過去の苦い経験から、不正行為を抑止する目的で、入社時に身元保証人を立てる慣習ができたと考えられます。
火のない所に煙は立たぬということわざがありますが、保証人になってくれる人がいないのは、何かしらの原因がその人にあるからと考える企業もあります。それが結果として、危険性のある人物を入社前に排除することや、入社後の抑止力につながっている可能性は否定できません。
しかしながら、不正行為者を解雇処分にした話はあっても、身元保証人にまで損害賠償請求が及んだというのは、あまり聞いたことがありません。
裁判を考えたとしても、証拠や証人の準備といった手間、元スタッフを起訴していることが現スタッフに与える影響などを想像した結果、事を荒立てず、不正行為者に対して処分するのみとなることがほとんどです。
適正上限額はいくら?今こそ身元保証の見直しを
初めに、「身元保証書で損害賠償を約束させるには、上限額を設定する必要がある」ことを書きましたが、その上限額をいくらとするかは、企業が考えて決めること。極端にいえば、10万円でも1000万円でも良いのですが、身元保証人がサインをする確率がかなり違ってくるはずです。
10万円であれば、その程度ならと署名してくれる確率は高いでしょうが、果たしてその金額を受け取ることに意味があるのか…。1000万円なら補償額として十分かもしれませんが、身元保証人が署名する確率はかなり低くなることは明白…。
入社時に高いハードルを設けることがリスクヘッジとして機能していると思われがちですが、ハードルが必要以上に高いことで、失われてきた人材も多いはずです。
法改正を機会に、パチンコホール企業は身元保証に関して見直していくべきかと思います。
後編へ続く