パチンコ店入社の高いハードル【身元保証制度】後編
パチンコ市場規模・動向 2020/10/13
身元保証契約で個人が損害賠償を約束する際は、上限額を定めることが必須となりました。
身元保証法では、保証人の責任が重くなりすぎないように、期間などが定められています。
これらをすべてクリアすることは、パチンコホール企業にとって簡単なことではありません。入社時に身元保証書を提出させず、後で提出させる手法などをお伝えするとともに、これからの身元保証の運用について考察していきます。
身元保証期間は原則3年終了時には契約更新が必要
まずは、前編を簡単におさらいしておきましょう。
2020年4月に民法第465条の2が改正されたことにより、人事・労務では身元保証の規定が変わりました。個人が身元保証人となる場合、その保証人が支払いの責任を負う金額の上限を記載しなければ、保証契約は無効となったのです。
これまでと違い、具体的な金額が必要になるため、設定額によっては、保証人の辞退理由になりかねないことに。
この機に、身元保証に関して見直す必要があるのではないかと、前編ではお伝えしました。今回は、身元保証の運用について考えていきます。
そもそも、身元保証とは何でしょうか? 本来の意味は、入社予定の方が誠実に仕事をする人物であると、太鼓判を押すことです。しかし、このパチンコ業界では、“何かトラブルがあった際の連帯保証”の印象を強く与えてしまうことが多々あります。
一方、身元保証法第1条および第2条には、身元保証人の責任が重くなりすぎないように、保証期間は原則3年(最長5年)で、自動更新は無効。更新する場合も、原則3年(最長5年)と定められています。
身元保証制度を続けていくのであれば、保証期間が終了するたびに、契約を更新しなければなりません。
3年(最長5年)も経てば保証人の状況が変わり、定年や退職をしたことで収入がなくなっていることもあれば、残念ながらご不幸に見舞われているケースもあるはず。更新が困難になることが、十分に考えられるのです。
また、同法第3条には、労働者本人に業務上不適任または不誠実な事跡があり、身元保証人がその責任を問われるおそれがある場合や、任務や任地の変更により身元保証人の責任が増加する転勤や昇格といった場合には、使用者は身元保証人に通知する必要があると定められています。
昇格人事や店舗異動といった人事異動が多いパチンコホールでは、そのたびに通知する運用側の労力は、相当なもの。
保証期間終了時の契約更新、事あるごとに保証人への通知、これらをすべて行うのは、現実的ではありません。また、度々保証人に連絡をされる社員は、「会社から不信感を抱かれているのではないか」と、疑うおそれも。
入社時に身元保証制度を用い、賠償責任を求めることは、元々難しいことでしたが、民法改正によって、さらにその難易度が上がったといえるでしょう。
身元保証人からの質問に答えられる準備を
今後は、身元保証書に賠償の上限額を記載することで、保証人の認識は、「賠償しなければならない」という漠然としたものから、具体的なものに変わります。
「何をしたらこの金額を賠償するのか」「その金額は何を基準に決めているのか」といった質問が出る可能性は、大いにあるでしょう。賠償が多額であればあるほど、よりシビアで具体性のある説明を求められると考えられます。
保証人はホールと無関係の方が多いでしょうから、“この業界特有の”という話は通じないと留意すべきです。
質問に明確に答えられなければ、不安感を増長させ、保証人になることへの拒否や、本人の入社辞退の引き金を引くことになりかねません。
まずは、自社の身元保証制度は効果があったのかを調査し、その上で身元保証制度を設けるのであれば、正しい知識を入社予定者に伝えられるようにしておくことをおすすめします。
入社前面談を行い、書類の内容を一つ一つ説明していく企業もあれば、承諾後に入社書類一式を送付し、返送を待つ企業もあり、受け入れ方法はさまざまです。
入社書類に何の説明もなく、ただ賠償の上限額が記載された身元保証書を送付する企業は、まず入社予定者が抱く印象と、それを保証人に渡さなければならない感情を考えてみてください。さらに、それを見たときの保証人は、どのように感じると思いますか。
なぜこの書類が必要なのかと、過去の事例や上限額の根拠がしっかり説明されていれば、だいぶ印象は変わるはず。場合によっては、受け入れ担当者が保証人に直接、説明をすることも必要になるのではないでしょうか。
初めてパチンコホールで働く方は、業界に対する知識は当然ながらありません。受け入れ担当者から、具体的な説明をすべき場面も出てくるはずです。
それも難しいのであれば、入社した本人がパチンコ業界に対する知識をつけた後で、自ら保証人に説明できるように、金銭を取り扱う業務に就くタイミング、もしくは役職者となるタイミングで保証人をつけるのも、一つの手。実際、入社時には緊急連絡先として本人以外の連絡先をもらい、前述のタイミングで保証人を準備する企業もあります。
身元保証制度は本当に必要なのか?
身元保証制度について取り上げてきましたが、現状は、ほとんどの企業で形骸化しているといわざるを得ません。かえって、入社辞退などの目に見えない悪影響を与えているだけといっていいでしょう。
本来、企業は、採用すべき人材を見極める力を高め、その門をくぐり抜けた人材が入社辞退とならないように採用力を高め、入社した人材が間違いを起こさぬように育成力を高めることによって、自社のロイヤリティーを高める好循環をつくり上げていくものです。
その過程の中で、身元保証制度はそもそも必要なのか?法改正によって整備、運用管理の難易度がさらに高まったことも含め、「百害あって一利なし」というのが個人としての見解ですが、自社の制度について改めて考えてみてはいかがでしょうか。