コロナ禍の転職|短期的な安全性だけを見ない
転職雑記 2020/11/5
2020年6月末に発売された「会社四季報」(2020年3集夏号)では、金融など一部業種を除く全上場企業を対象に、手元資金の潤沢さの指標となる「手元流動性比率」(直近決算期末時点)が掲載されていました。
そのTOP10の中にパチンコ業界の遊技機メーカーおよび機器メーカーが入っていたので少々驚いた記憶があります。
1.手元流動性比率TOP10
1位:オービックビジネスコンサルタント
〇2位:SANKYO
3位:メルカリ
4位:丸八HLD
5位:ツツミ
6位:ネクソン
7位:ゴールドクレスト
8位:日本セラミック
〇9位:ゲームカード・ジョイコホールディングス
10位:テーオーシー
※平均月商が少ない場合に手元流動性比率が高い数値となることがあるので、対象企業は直近決算期の平均月商が10億円以上という条件になっています。
なお、指標となる「手元流動性比率」とは、保有する現金や預金に株などを加えた金額が、平均月商の何カ月分あるかというもので、「短期的な資金の余裕度・支払い能力」を表します。
手元流動性が高いほど「売上高が急減」しても固定費の支払いや債務の返済余力があるということで、一般的には「財務の健全性が高い」と評価されます。
2.パチンコ遊技機の超大手メーカー
〇2位 SANKYO 約37ヶ月分
パチンコ遊技機メーカー最大手のSANKYO。同社は業界初のセブン機(デジパチ)「フィーバー」を世に送り出したメーカーとして知られています。
その他にも、液晶タイプのフィーバーパワフルは当時のパチンコ販売促進の常識を変えた名機で、オリジナルキャラである夢夢ちゃんは「メーカーオリジナルキャラシリーズ」のはしりともいえるでしょう。
また、同社はパチンコ業界トップの特許を誇っており、2018年の数値で特許資産1591件と2位の三洋の880件のほぼ倍で、その収入も莫大です(特許資産数はパテント・リザルト社調べ)。
2021年3月期第1四半期の決算短信(2020年4月1日~6月30日)では大幅な増収増益となっており、6月時点での手元流動資金も2428億円、手元流動性比率も約37ヶ月分で揺ぎ無しといえそうです。
コロナ禍にあってパチンコ業界では、顧客である店舗の臨時休業や設備投資意欲の低下など大きな影響が見られたものの、こうした厳しい状況への備えができているのはさすがです。
3.カードシステムの最大手
〇9位 ゲームカード・ジョイコホールディングス 約21ヶ月分
同社は「日本ゲームカード」として1989年に設立された、主にパチンコ店向けのプリペイドカード事業を営む会社です。
40代以上のパチンコ関係者やパチンコファンはご存知かと思いますが、1990年代に登場したCRパチンコは、直接の現金投入ではなく「プリペイドカード」(磁気カード)を購入することでプレイをしていました。
当初、東は「パッキーカード」(日本レジャーカード)、西は「パニーカード」(日本ゲームカード)という住み分けでスタート。
その後もプリペイドカードシステムの会社は増えましたが、同社は親会社の変更や競合他社との合併を重ね、現在に至っています。
なお大株主にはSANKYOをはじめ平和、京楽産業.、サミー、大一商会、ニューギンなどパチンコメーカー13社や業界関連企業が名を連ねています。
今年はコロナ禍によるパチンコ店の営業自粛の影響を受け、2020年4-6月期(1Q)の経常は減益となりましたが、6月時点(6月直近決算)での手元流動資金は296億円となっており、手元流動性比率も約21ヶ月分と手元資金は潤沢みたいです。
4.ランキング50位内に入っていたその他のパチンコ関連企業
■ランキング31位 マースグループホールディングス 約12ヶ月分
昨年創立45周年を迎えた、持ち株会社の「マースグループホールディングス」は、子会社となっている「マースエンジニアリング」が大元であり、アミューズメント関連機器の大手メーカーとして知られています。
また同社はパチンコ店向けプリペイドカード事業のシェアでは、ゲームカード・ジョイコホールディングス、グローリーグループに次ぐ業界第3位でもありますが、それよりも各台計数システムの草分けともいえる「パーソナルシステム」の会社と言えば、パチンコ関係者なら誰も知っているのではないでしょうか。
このパーソナルシステムは2007年から発売されており、同社の旧直営店では2005年にテスト導入されていました。
同社は2018年に持ち株会社に移行したばかりですが、アミューズメント関連事業、自動認識システム関連事業の他に、新たにホテル関連事業にも進出中。
2021年3月期第1四半期の決算短信(2020年7月発表)では減収減益となっていますが、6月時点(6月直近決算)での手元流動資金は227億円となっており、手元流動性比率も約12ヶ月分と余裕がありそうです。
■ランキング31位 サン電子 約12ヶ月分
サン電子は、業界では「SUNTAC」(サンタック)ブランドとしてホールコンピューターなどパチンコ関連機器のメーカーとして知られています。
また、ゲームソフトでも「SUNSOFT」ブランドとしてパズルゲーム「上海」は有名です。この他にも、大ヒットしたホラー脱出ゲーム「CLOCK TOWER」も同社が開発しています。
しかし、サン電子の名前を日本、いや世界的にした出来事がありました。それは2016年に起こったイスラエルの子会社「Cellebrite Mobile Synchronization(セレブライト社)」の話題です。
その前年、米国で起きた銃乱射事件の犯人が所有していたiPhoneのロック解除について、FBIの要請をアップルはプライバシーを盾に拒否して世界的な話題となりました。
ところがFBIは翌年、匿名の第三者の協力を得てiPhoneのデータアクセスに成功。これに協力したのがセレブライト社ではないかと報道されたのです。
同社はモバイルセキュリティの世界的企業であり、その親会社が日本企業のサン電子だったことから、「サン電子」の名前も一躍世に知られることになった、と。
なお、同社の「2021年3月期 第1四半期決算短信」(2020年4月1日~6月30日)では増収減益となっていますが、6月時点での手元流動資金は264億円となっており、手元流動性比率も約12ヶ月分と余裕がありそうです。
■ランキング49位 藤商事 約10ヶ月分
藤商事と言えば、業界では昔から「アレパチ」メーカーとして有名でしたが、近年はホラー機種のメーカーとして有名になっています。
中でもジャパニーズホラーの代表作「リング」のパチンコシリーズは大ヒットを記録し、その後に発表された「呪怨」「地獄少女」シリーズとともに、ホラーマシンメーカーとしての地位を不動のものにしています。
同社の「2021年3月期 第1四半期決算短信」(2020年4月1日~6月30日)ではコロナ禍の影響などもあり減収減益となっていますが、6月時点での手元流動資金は218億円となっており、手元流動性比率は約10ヶ月分となっていました。
5.転職先を選択する際は短期的な安全性だけを見ない
日本の上場企業から選ばれたトップ50社の中に、パチンコ業界の関連企業が5社も登場していたことにビックリです。
新型コロナの蔓延によって、多くの業種・企業が影響を受けましたが、このような不測の事態において「手元流動性比率が高い」というのはひとつの安心材料ではあります。
ただ、手元流動性比率が高いから「今後も安心か」といわれると、そういうことではありません。あくまでも「短期的な安心材料」です。短期的な安全性を確保しながらも、資金を有効活用して利益を増やすための経営努力、中長期成長戦略が重要です。
パチンコホール企業の場合、非上場がほとんどなので、手元流動性比率を確認することは難しいですが、コロナ禍による先行き不透明感から人的コストは極力抑えたいという現状で「人に投資をしている」ところは、何かしら目的があります。
「新卒および中途の人材採用活動においてコストをかけているか、いないか」はひとつの目安になるといえるでしょう。
コロナ禍だからこそ、今後の展開をどのように考えているのか、企業選びの際はしっかり確認されることをおススメします。