転職したら労災保険の受給はどうなる?
転職雑記 2022/4/12
勤務中や通勤途中にケガや病気になった場合、「労災保険」が適用される場合があります。
しかし、転職などで退職してしまうと、労災保険の申請ができなくなるのでしょうか?
あるいは受給中の場合はどうなるのでしょうか?
今回は転職と労災保険の関係についてお伝えしたいと思います。
1.労災保険とは?
「労災保険」は、勤務中や通勤途中の怪我や病気などについて、保険給付を行う制度のことです。
療養費の給付、休業の給付、障害が残った場合の給付などが行われます。
「労働者災害補償保険法」という法律にもとづいて運営されていることから、略して「労災保険」と呼ばれており、仮に自分のミスであっても「故意や重過失を除き」給付されるので覚えておきましょう。
労災保険は、生命保険などとは違い、一人でも従業員がいる事業者(会社)は、必ず労災保険に加入しなければならず、保険料はすべて会社が負担します。
パート、アルバイトも同様です。労働基準監督署で「労災と認定」されれば給付が受けられますが、過去の怪我や病気に関しても、2年以内であればさかのぼって療養(補償)給付や休業(補償)給付を受けることができます。
2.退職後でも労災保険の申請はできる?
退職後であっても、労災申請することができます。
通常、労災請求書には事業主の記載や証明が必要な欄があり、協力してもらう必要があります。
しかし、退職後であると事業主が協力を拒むことも考えられるでしょう。
仮に協力を拒まれた場合でも、事業主の証明欄を空白にしたまま「事業主の協力が得られない旨」を労働基準監督署に説明をすることで受け付けてもらえます。
もし労災保険給付を受けられないと勘違いして健康保険を利用してしまっている場合は、切り替え手続きが必要になります。
3.退職後いつまで申請できる?
労災保険の申請自体は退職後でも問題なくできますが、請求期間(時効)があるので注意しましょう。
労災保険の申請時効期限は、給付内容ごとに起算日から2年あるいは5年が原則となります。
・主な補償給付についての時効期間
請求内容 | 時効期間 |
療養(補償)給付 | 2年。起算日は療養にかかる費用の支出が具体的に確定した日の翌日 |
休業(補償)給付 | 2年。働くことができず賃金が受けられない日ごとの翌日 |
傷病(補償)給付 | なし |
介護(補償)給付 | 2年。介護を受けた月の翌月1日 |
葬祭料・葬祭給付 | 2年。労災で労働者が死亡した日の翌日 |
障害(補償)給付 | 5年。傷病が治癒(症状固定)した日の翌日 |
遺族(補償)給付 | 5年。労災で労働者が死亡した日の翌日 |
※傷病(補償)については、被災労働者の申請ではなく労働基準監督署の署長が職権によって支給を行うものであることから、時効の対象になりません。
4.受給中の退職でも労災保険給付は受けられる?
労災保険受給中に退職しても、引き続き労災保険の受給は可能です。
労災保険は、労災という会社に関係する事故によるものであるため、会社に在職していることが労災保険受給の条件と考えがちです。
しかし、労働基準法83条1項には、「補償を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない」と明確に規定されています。
また、労働者災害補償保険法12条の5第1項には、「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない」との規定があります。
退職したからといって労災保険は打ち切りにならないのです。
また、退職により労災保険給付の受給額が減額になることもありません。
たとえば、休業(補償)給付等では、給付金額は給付基礎日額の80%(休業補償給付+休業特別支給金)が支給されます。
給付基礎日額は、事故が発生した日の直前3ヶ月間に被災労働者に対して支払われた金額の総額をその期間の暦日数で割った、一日当たりの賃金額になります。
給付基礎日額は事故発生前の給与額を対象にしていますから、事故後に退職するかどうかは受給額に影響を与えないことがわかります。
5.転職したら労災保険の受給はどうなる?
「転職すると労災保険の受給がストップするのでは?」と不安な人もいるでしょう。
しかし、労災給付を受けているからといって、労働者の自主退職や転職に法的な制限はありません。
ですので、転職後も労災保険から療養補償給付や休業補償給付を受給できます。
労災保険の給付は労働者災害補償法に基づいて国が行うものであり、会社が給付しているわけではないため、転職を理由に労災給付が止まることはないのです。